こんにちは。福岡で活動しているライター、大塚たくまです。古賀マガジンでの連載は第3回目。
ぼくの出身は筑豊なんですが、実家は福岡県宗像市にあります。宗像と言えば、世界遺産に登録されたことで有名な「宗像大社」があることはご存知かと思います。
でも「世界遺産になったからといって、宗像大社に行ってみるか」と聞くと、ぼくはつい言ってしまいます。
「ただの大きな神社だよ」
情けないと思いませんか。地元の世界遺産になった立派な神社を「ただの大きな神社」だと。実家がある街なのに、この認識です。
たしかに観光客を喜ばすような、お土産屋が立ち並ぶ参道はありません。観光客目当てのおしゃれなカフェもありません。でも、宗像大社はそれ以上の価値があるから、世界遺産に選ばれているはず。
そこで今回、ぼくは宗像大社を勉強しました。
この記事では、歴史に興味関心がない人でも、宗像大社がなぜ世界遺産に選ばれたのか納得でき、楽しめるように超かみくだいて解説します。
なぜ宗像大社が世界遺産になったのか?
まず、なぜ宗像大社が世界遺産に選ばれたのか。ここを理解しなければなりません。
そもそも「世界遺産」とは?
世界遺産とは、世界遺産リストに登録されている、人類が共有すべき「顕著な普遍的な価値」を持つ物件のことです。文化財や景観、自然など移動が不可能な不動産が対象とされています。
文化遺産、自然遺産、複合遺産に分けられており、宗像大社が当てはまる”「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群”の登録区分は文化遺産です。
宗像大社の「信仰・祭祀の歴史」の迫力
ぼくは「宗像大社がすごく歴史のある神社だから、世界遺産になった」というイメージでしたが、これは非常に雑な認識でした。
宗像大社という「建物」が世界遺産になったのではなく、宗像市から福津市での宗像三女神への固有の信仰や祭祀(※)が現代まで続いていることが評価されて、文化遺産として世界遺産リストに登録されているのです。
※祭祀(さいし)……神や祖先をまつること。
そもそも、宗像大社だけが世界遺産になったわけではありません。世界遺産リストに登録された正式名称は”「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群”であり、構成資産は以下の通り。
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮、小屋島、御門柱、天狗岩)
- 宗像大社中津宮(御嶽山祭祀遺跡を含む)
- 沖津宮遙拝所
- 宗像大社辺津宮
- 新原・奴山古墳群
一般的に宗像大社と言えば、イメージされるのは「宗像大社辺津宮」のみという方が多いのが実情。宗像大社辺津宮の建物や空間を見ながら「これが世界遺産か」と味わうのは、ピントがズレていると言わざるを得ません。
世界遺産としてもっとも重要な要素は現代まで続く、固有の信仰・祭祀の歴史です。とくに島全体が御神体の沖ノ島は重要な意味を持ちます。
その歴史の迫力を感じることこそ、宗像大社を世界遺産として楽しむコツなのです。
宗像大社が世界遺産になったカギ「沖ノ島に宿る神への信仰」
世界遺産になった要因として、沖ノ島で1000年以上も昔の祭祀遺跡が見つかっていることは重要な意味を持ちます。そもそも、沖ノ島とはどのような島なのでしょうか。
航海の安全を祈る気持ちから生まれた沖ノ島に宿る神への信仰
沖ノ島は、九州本土から約60km離れています。整った形でよく目立つため、日本と朝鮮半島を行き来した船は沖ノ島の存在を目印にしていました。
当時の船は手漕ぎの小さな船です。そんな船で何100kmも航海するなんて、想像するだけでゾッとします。エンジンもなければ、レーダーもありません。
実際、途中で船が壊れてしまうことも多く、古代の航海は死と隣り合わせのとても危険なものだったのです。
だからこそ、航海の目印となる沖ノ島の存在がどれほど重要だったかは、想像に難くありません。沖ノ島に航海の安全を祈るようになったことで、信仰が生まれたと言われています。
沖ノ島全体が御神体
宗像大社沖津宮がある、沖ノ島は島全体が御神体です。
現在、島全域は宗像大社の私有地であり、宗像大社の許可がなければ、島内に入ることはできません。世界遺産に登録される際、島への接近・上陸対策が強化され、2018年からは研究者らを除く一般人の上陸は全面禁止となりました。
そのため、普段は沖ノ島に常駐する神職以外は、基本的に人が上陸することはありません。
「神宿る島」沖ノ島は古代から現代にいたるまで、島に宿る神への崇拝が継承されてきました。これは、文化的伝統の非常に珍しい事例です。
ちなみに沖ノ島には、昔から4つの禁忌があり、現在でも守られています。
- 島で見聞きしたことを他人に話さない
- 一木一草一石たりとも持ち出してはならない
- 禊をせずに島に入ってはいけない
- 島で四つ足の動物を食べてはいけない
世界遺産となる大きな要因だった祭祀遺跡
沖ノ島の島内には、古代祭祀遺跡が残されています。4世紀後半から9世紀末まで続いた、航海安全を祈る祭祀の遺跡が、ほぼ手つかずの状態で残っていたのです。
古代の人々がどのように祈祷していたかを示す、重要な遺跡です。そして、その祭祀や信仰の歴史は現在でも続いているのです。
古代から今も続く信仰の文化が魅力
古代の人々が沖ノ島に航海の安全を祈った気持ちから、宗像大社の由来となる「宗像三女神」が生まれました。
そのため、宗像三女神の女神様の名前には、海の自然現象や島に関係する古い言葉が由来となっています。
宗像大社沖津宮(沖ノ島)
田心姫神(たごりひめのかみ、たきりひめ)……霧
宗像大社中津宮(大島)
湍津姫神(たぎつひめのかみ)……激流(滝の語源である「たぎる」から)
宗像大社辺津宮(九州本土)
市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)……神様をまつる島(神様を祭る「いつく」という言葉から)
宗像大社の世界遺産ロマンを感じるには大島へ行こう
宗像大社は単なる神社として楽しむのではなく、古代から現代まで続く宗像三女神の信仰の歴史にロマンを楽しむことが重要です。宗像大社の辺津宮だけを参拝しても、なかなかその壮大さを感じることはできません。
そこで、おすすめなのが九州本土から約6.5km離れた、大島に上陸することです。大島には、宗像三女神の信仰が今でも強く根付いています。
神湊渡船ターミナルから大島へ
大島へ行くには、神湊渡船ターミナルから「市営渡船大島航路」の船に乗る必要があります。運賃は大人(中学生以上)570円、小児(小学生~1歳)290円。大人に同伴する小児は、 大人1人につき1人まで無料。
島民の重要な交通手段となっている船は、もちろん毎日運航。「フェリーおおしま」が1日5便、「旅客船しおかぜ」が1日2便なので、事前に時刻表をチェックしておきましょう。
フェリー「おおしま」なら約25分、旅客船「しおかぜ」なら約15分で大島に到着します。あまり肩肘張らず、気軽に行ける離島です。
七夕伝説発祥の地「宗像大社中津宮」
大島に到着したら、宗像大社中津宮に参拝に行きましょう。宗像三女神の湍津姫神が祀られています。
宗像大社のひとつとして大切な場所なのはもちろんですが、実は中津宮は有名な「七夕伝説」の発祥の地と言われている点でも重要な場所です。
宗像大社の公式サイトには以下のような記述があり、七夕伝説を伝えています。
天の川伝説には、唐に渡った貴公子が織女を伴って帰国後、二人は離ればなれとなり、日々織女に想いを寄せていたら、ある夜の夢枕で、天の川にタライを浮かべると水鏡に織女が映るとのお告げがあり、それから貴公子は神仕えをしたと伝えられています。
宗像大社公式サイト
そのようなストーリーのある場所なので、中津宮は縁結びを祈る場所としても人気を集めています。
中津宮は美しい朝焼けも魅力です。とくに立春と冬至の頃、ちょうど参道の延長線上に朝日が昇り、その美しい光景は「光の参道」と呼ばれ、島民にも親しまれています。
宗像大社中津宮の住所:福岡県宗像市大島1811
沖ノ島に宿る神のへ祈りを「宗像大社沖津宮遙拝所」
宗像大社中津宮を参拝した後に向かってほしいのが、宗像大社沖津宮遙拝所。大島から48km以上離れた、沖津宮へ祈りを捧げるための拝殿です。
建物自体は昭和8年に建設されたものですが、寛延2(1749)年と刻まれている石碑も残っており、少なくとも江戸時代以前から、ここで沖ノ島への遥拝が行われていたことがわかります。
沖ノ島は女人禁制という背景もあり、女性たちはここから沖ノ島へ祈りを捧げていました。
九州本土での辺津宮、大島の中津宮とこの遙拝所を参拝することで、宗像大社の三社を拝めたことになります。
遙拝所の存在そのものが、大島での沖ノ島に宿る神への信仰の重要性を物語っている、重要な場所です。
宗像大社沖津宮遙拝所の住所:福岡県宗像市大島字伊東1293
大島に宿泊込みでの滞在がおすすめ
世界遺産となった宗像大社の歴史ロマンを感じるためには、現代でも大島に根付いている沖ノ島に宿る神への信仰を感じ取るのが一番です。
そのためには、大島に宿泊し、島の方と交流するとよいでしょう。
大島には、数多くの民宿が営業中。さまざまな民宿がありますが、一棟貸しの貸別荘「MINAWA」は絶景を楽しみたい方におすすめ。
窓からは、一面の海。
まさに絶景の中に見える灯台がよく映えています。めちゃめちゃ気持ちがいいです。ここは本当に福岡なのか……。
ちなみにお風呂は、そのへんの露天風呂よりも開放感があります。ぜひゆっくりと流れる「島時間」を宿泊で体験してみてください。
MINAWAの住所:福岡県宗像市大島字神崎2695-63
世界遺産・宗像大社に感動するなら大島に泊まろう
世界遺産となっている宗像大社の一番の魅力は、古代から現代まで続く宗像三女神への信仰が現在の暮らしにも根付いていることです。
4世紀の時代にも、同じこの場所に人々が生きていて、今そこに自分も生きている。そんな歴史の中に自分がいることを実感させてくれる、ロマンある場所なのです。
人があたたかく、景色が美しく、海の幸も山の幸もおいしい豊かなところであり、観光にぴったり。
今も当たり前のように沖ノ島をはじめ、宗像三女神の信仰を大切にする文化が、生活に根付いている大島。大島の文化と触れることで、宗像大社の迫力を体感してほしいと思います。
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